History
VOCALOIDはどのようにして生まれ、どのように発展したのでしょうか?
VOCALOIDの20年間の歴史を紐解いていきましょう。
20世紀の最終年、VOCALOID の前身となる開発が「DAISY」という開発コードで本格的にスタートしました。
シンセサイザーを代表として、ギター、ドラム、管楽器やバイオリンに至るまで、あらゆる楽器が電子楽器化されてきた中で、2000年当時、唯一残された「歌声」の電子楽器化の領域へヤマハは本格的に歩みを進めたのです。
当初は静岡県 磐田市にある豊岡工場の一角にて研究・開発が行われていました。
開発開始当時のエピソードはこちらの開発者インタビューでも語られています。
ドイツ・フランクフルトの世界最大規模の楽器ショー「Musikmesse」で VOCALOID が発表されました。
「歌声」の電子楽器化という新しい試みに、世界各国の技術者が大きな関心を寄せました。
アメリカ・カリフォルニアで行われた楽器ショー「The NAMM Show」にて VOCALOID を使用した初めての製品として ZERO-G の英語ライブラリ「LEON」「LOLA」がリリース、ついにVOCALOID(1) が一般向けに販売開始となりました。
同年11月、初の日本語ライブラリである「MEIKO」がクリプトン・フューチャー・メディアからリリース、同製品は当時のDTM市場における異例のヒットを記録、キャラクターのイメージイラストが描かれたパッケージのディレクションは後の製品群にも引き継がれ、大きな影響を残したと言えます。
VOCALOID 日本語ライブラリの第2弾として「KAITO」がクリプトン・フューチャー・メディアからリリースされます。日本語 男声ライブラリのパイオニア的存在として現在に至るまで人気を集めています。
また、この年にVOCALOIDの発展に絶大な影響をもたらした動画プラットフォームの「ニコニコ動画」が誕生しています。
VOCALOID にとってのエポックメイキングな年を一つ挙げる際、2007年を挙げる方は多いのではないでしょうか。より発音がクリアになった「VOCALOID2」が年始の NAMM Show にてリリース、そして当エンジンを使用して同年 8月31日 に「初音ミク」が クリプトン・フューチャー・メディアよりリリースされます。
「初音ミク」は歌声の対応力の広さとそのキャラクター性から次世代の”歌姫”としてにわかに注目を集め、DTMの一般普及・ニコニコ動画というオリジナルコンテンツの受け皿となるプラットフォームの存在、と全てが奇跡的なタイミングでかみ合い、爆発的な広がりを見せます。ネット上を中心に VOCALOID をメインボールに起用した数多くの楽曲が誕生、いわゆる「ボカロ」カルチャーの始まりの年と言えるでしょう。
2007年の勢い冷めやらぬまま、ネット上に投稿される「ボカロ曲」は増え続け、個性輝く様々なアプローチの楽曲が多数投稿されます。人間には歌いこなすのが困難な早口を多用した楽曲が生まれたのもこの頃で、「ボカロ曲」ならではのガラパゴス的進化の様相を見せ始めます。
そんな活況の中、VOCALOID2エンジンでは男性の声を元にした最初の製品である「がくっぽいど」がインターネット社より発売されます。著名アーティストのGACKTさんの声質を忠実に再現する事に重きを置いて開発された本製品は、漫画家の故三浦建太郎氏を起用したパッケージイラストも相まって大きな注目を集め、「がくっぽいど」を使用した楽曲投稿数は発売3日で200曲近くにも上りました。
サーバ上にVOCALOIDエンジンを実装し、ネットワークを介して歌声合成機能を提供するSaaS型サービスである「NetVOCALOID」のサービスが開始しました。初音ミクやがくっぽいどの活躍もあり、当時VOCALOIDはDTMの世界の枠を超える形で人気を博していましたが、実際に商品を触ってもらうにはPCスペックをはじめとして高いハードルがありました。老若男女問わずより多くのユーザーにVOCALOIDを体験してほしい、という思いから生まれた本サービスを活用し、クリプトン・フューチャー・メディア/インターネットにて「ミクと歌おう♪」「ケータイがくっぽいど」がスタート。携帯電話(ガラケー)を通じて VOCALOID を使用できる、という革新的な出来事に、PCを持っていない若者層や、パッケージ版の価格にハードルを感じていたユーザーが歓喜しました。「NetVOCALOID」の存在は VOCALOID の門戸を大きく開き、ユーザーの幅を拡げた一翼を担ったと言えるでしょう。
また、「ボカロ曲」の成熟が楽曲面/ミュージックビデオ面両方で急速に進み、2024年現在でも人気の高い多くのキラーチューンが本年に生まれました。
iOS上で動作するアプリケーション「iVOCALOID VY1」がリリースされました。PC用DAWソフトウェアで使用されるピアノロール式のインターフェースを搭載し、制作した楽曲をメールで送信できる機能も備え、楽曲制作におけるPCとスマートデバイス間での本格的な連携が可能になっていました。「iVOCALOID VY1」はVY1の音声を使用することが出来ましたが、その後「VY2」/「蒼姫ラピス」とバリエーションを増やしていきました。
KONAMIより発売されたゲームソフト『METAL GEAR SOLID PEACE WALKER』では、「NetVOCALOID」サービスのシステムを活用し、プレーヤーがゲーム内にて作成した歌を歌わせる機能が搭載されました。VOCALOID がゲーム業界へ進出したメモリアルな年と言えます。
また、この辺りから各社から多くの歌声ライブラリが発売されるようになり、TV番組ポンキッキシリーズのキャラクター「ガチャピン」の歌声をベースにした「ガチャッポイド」など、個性的なライブラリも登場していきます。ヤマハが自社で企画、開発した製品が自社ブランドで販売されるようになったのも本年からです。
早口の表現や音程/音色変化の際の滑らかさを改良した「VOCALOID3」が発売されました。対応言語は従来の日本語/英語に加えて中国語/韓国語/スペイン語の計5か国語に対応、ソフトウェアとしてのグローバル化が図られました。その他、無制限のアンドゥが可能になったのもユーザー体験の観点で特筆すべき点です。
VOCALOID3 の発売時には53時間にわたる生放送をニコニコ動画で実施しました。53時間という時間設定の理由はVOCALOIDの「V」がギリシャ数字で「5」であることから、バージョン「3」にちなみ「53」時間となりました。
経産省『H24年度クールジャパン戦略推進事業』に「VOCALOID Trans-Pacificプロジェクト」が採択されました。ジャパンコンテンツをアピールし、新たなビジネスモデルで日本経済を活性化させる事を目的とした推進事業に VOCALOID関連プロジェクト が選出、2010年代では2012年がネットへのボカロ曲の投稿数がピークというデータもありますが、当時の破竹の勢いを物語る出来事と言えます。
「VOCALOID3 Editor」で使用できるプラグイン「VOCALOID3 Job Plugin VocaListener」が発売、歌声を入力に用いて VOCALOID のパラメーターを設定し合成歌唱を作り出すことができるユニークなプラグインとして人気を集めました。
スマートフォンへの移行が急速に進み、ヤマハもVOCALOIDを「iVOCALOID SDK」として外部企業向けに展開した他、自社独自アプリの開発も行います。
例えば、SEGAよりリリースされた「うた詠み575」は五・七・五形式で入力した言葉を正岡小豆と小林抹茶の2キャラクターのライブラリで詠ませることができました。(「うた詠み575」用に作成されたライブラリをきっかけに、VOCALOID4用ボイスバンク「AZUKI」「MATCHA」が後に生まれました。)
「ボカロダマ」はヤマハが独自開発したVOCALOIDの歌声合成技術を活用したゲームアプリで、VY1が使用されていました。
また、ニンテンドー3DS上で動作するVOCALOIDを使用した製品が登場したのも本年です。3DS用ソフトウェア「大合奏!バンドブラザーズP」では、「アーチスト」というアバターに歌わせるためにVOCALOID技術が使用されていました。
一方、「VOCALOID Editor for Cubase NEO」で10年越しでようやく VOCALOID が Macに 対応しました。
「VOCALOID4 Editor」「VOCALOID4 Editor for Cubase」がリリースされます。表現力と使いやすさの向上を徹底的に図り、唸るような声を作り出す「グロウル」や複数の音声ライブラリをミックスできる「クロスシンセシス」などが搭載された本バージョンは2024年現在でもメインEditorとして使用するユーザも多く、根強い人気を誇っています。特に「VOCALOID4 Editor for Cubase」、通称ボカキューはCubaseと一体化したワークフローで非常にスムーズな楽曲制作が実現できたことから、多くのクリエイターが使用していました。
LSI(大規模集積回路)に実装させる組み込み型のボーカロイドである「eVocaloid」対応音源”NSX-1”を搭載した「ポケット・ミク」が学研社の大人の科学マガジンシリーズから発売されました。
また、SEGAより、PS Vita で「うた組み575」というVOCALOID技術を使用したソフトウェアも発売されました。様々なプラットフォーム上でVOCALOIDが動くのが当たり前になってきた時代と言えるでしょう。
iOS 用アプリ、Mobile VOCALOID Editorが発売されました。「iVOCALOID」から大幅なUI改善や機能拡張を実施し、アプリだけでも楽曲の制作が完結できるようになりました。PC版 Editor に引けを取らない編集機能と追加購入できるボイスバンクにより、いつでもどこでもVOCALOIDを本格的に楽しむ事が出来るようになりました。実際に、Mobile VOCALOID Editor とスマートフォン付属の標準アプリのみで楽曲投稿を行っていたクリエイターもいらっしゃるようです。詳しくはこちらのページをご覧ください。
また、日本を代表する歌謡曲、演歌歌手である小林幸子さんの声を元に制作された歌声ライブラリ「Sachiko」が発売されたのも本年となります。小林幸子さんのしゃくりやこぶしを分析し、本人の実歌唱に近づけた歌い方を簡単操作でVOCALOIDで再現ができる「Sachikobushi」という専用Jobプラグインを同梱していたのも特徴です。元々ネット上での活動も活発だった同氏ではありましたが、VOCALOID化には多くのユーザーを驚嘆させました。リアルとネットをつなぐVOCALOIDの新境地として、今も愛されるライブラリの一つとなっています。
前述の「Sachiko」を含み、歴代で最も多くのライブラリがリリースされたのが2015年です。
ゲームエンジンの「Unity」からVOCALOIDの合成エンジンにアクセスし、歌声合成が利用できるようになるソフトウェア開発キット「VOCALOID SDK for Unity」が提供開始、ゲームに連動してリアルタイムに歌声を合成し、キャラクターに歌を歌わせたりといったコンテンツの開発が可能になりました。
「VOCALOID SDK for Unity」は残念ながら現在配布が終了していますが、本キットに含まれていた歌声ボイスバンク「Unityランタイム版VOCALOID Library unity-chan!」のハイクオリティ版的位置づけとしてVOCALOID4用ライブラリ「unity-chan!」がリリースされ、現在VOCALOID SHOPで販売されています。
VOCALOID を学校教育用に最適化した Windows OS のパソコン・タブレット端末用ソフトウェアである「ボーカロイド教育版」が発売開始。楽譜が読めなくても直感的に、そして試行錯誤しながら楽しく「歌づくり」を学習することができる本製品は、多くの小学校の音楽の授業に取り入れられています。その後、iPad対応版などラインナップが拡張され、デジタル教材の草分け的存在として現在も進化を続けています。
2010年に発表された組み込み用ハードウェア「VOCALOID-board」を活用したキーボード「VKB-100」がついに製品化します。「歌を演奏する」というコンセプトの元にデザインされた「VKB-100」は、ショルダーキーボードのスタイルで右手で鍵盤演奏を、左手で歌声の表情付けを行います。歌声ライブラリとしてVY1が内蔵、初音ミク/Megpoid/IA/結月ゆかりが追加ライブラリとして使用が可能でした。
現在でもマジカルミライなどのイベントとコラボして限定デザインモデルが発売されたりなど、根強いファンが多いのも特徴です。スペックなど詳しくはこちらの製品ページをご覧ください。
VOCALOID4 からUIを刷新した VOCALOID5 がリリース。初の Mac スタンドアロン動作対応の他、エフェクトの組み合わせで好みの声色をプリセットできる「スタイル機能」やビブラートなどの歌唱表現をビジュアルで選択可能な「アタック&リリースエフェクト」など、クリエイターのワークフローを向上させる新機能が多数搭載されたました。エディターにボイスバンクが付属するようになったのもVOCALOID5からで、スタンダードで4種、プレミアムで8種のボイスを標準搭載していました。
NHKスペシャルの企画の中で、故人である美空ひばりさんの歌声再現の取り組みを支援し「AI美空ひばり」として実現、ディープラーニングを用いたヤマハの「VOCALOID:AI」 技術が世間に初公表されました。没後30年を迎え、歌謡界のトップを走り続けた絶世のエンターテイナーである美空ひばりさんの新曲ライブを具現化するために、4K・3Dの等身大のホログラム映像でステージ上に本人を出現させ、秋元康さんがプロデュースした新曲を、現代のAI(人工知能)技術を用いて美空ひばりさんの歌声で再現しました。
故人の歌声から新しい曲を生み出すという本取り組みは、「AI」を活用した新時代の取り組みとして大きなインパクトを残しました。
当時のニュースリリースはこちら。
株式会社ドワンゴ の主催する投稿祭ボカコレが初開催。以降毎年、年二回の頻度で実施され、人気ボカロPとしての登竜門的存在として規模を拡大し続けています。
この年は、研究開発にフォーカスを当てていました。
ヤマハが2021年に発売した、歌って話すコミュニケーションロボット「Charlie」にVOCALOIDの歌声合成技術と自動作曲技術が用いられました。楽器メーカーであるヤマハが手がけたコミュニケーションロボットという事でTVをはじめとした様々なメディアに取り上げられました。
この裏で「VOCALOID6」の開発が本格的にスタートしていました。
AIを用いた音声合成技術がにわかに注目を集めはじめる中、ヤマハからもAI技術を活用した新開発エンジンを搭載した『VOCALOID6』がリリースされます。一つのボイスバンクで日本語/英語/中国語のマルチリンガル歌唱が可能になった他、クリエイターの歌唱データをVOCALOID歌唱に置き換える「VOCALO CHANGER」機能を備え、従来バージョンから表現の幅が大きく広がりました。従来の合成エンジンを残しつつも、合成方式の刷新された新しいAIエンジンを搭載し、クリエイターの選択肢の幅を拡げました。ヤマハ「VOCALOID」の新しいステップの始まりです。
株式会社nana musicの提供する音楽コラボアプリ「nana」と共同で、VOCALOID のいわゆる""中の人""を応募する「歌って応募!ボカロになれるオーディション」を開催しました。ボーカリストの選定に一般公募の形をとるのは2012年発売の「蒼姫ラピス」以来となります。本オーディションでは最終的に3,000人を超える応募があり、グランプリに選ばれた「philo」さんの歌声が「符色」として2023年にリリースされることになります。
VOCALOID が「グッドデザイン ロングタイムデザイン賞」や「野間文化出版賞」を受賞しました。
ヤマハの研究部門の実験的取り組みとして「VOCALOID β-STUDIO」の活動が開始します。外部クリエイターを巻き込む形での実証実験を主題とする本取り組みはユーザーからの大きな注目を集め、期間/配布人数を限定した『VX-β』への抽選申し込みには定員を大きく超える応募が殺到しました。ヤマハのグル-プ会社であるSteinberg 「Cubase」とのシームレスな連携は VOCALOID4 時代の「VOCALOID4 Editor for Cubase」以来となり、ユーザー体験の大きな飛躍の可能性を示しました。
「VOCALOID6」に搭載された「VOCALO CHANGER」機能を進化・独立させたプラグイン「VOCALO CHANGER PLUGIN」が発売されました。クリエイターの歌声をリアルタイムにAIボイスバンクの歌声に再構築するユニークなプラグインとして、VOCALOIDを用いた楽曲制作の幅を広げました。
昨年度の「β-STUDIO」活動の成果を取り込み、VOCALOID6 用の新しいAI ボイスバンクが次々とリリース、試作プラグイン『VX-β』が VOCALOID6 に付属する形で無料配布されるようになった他、大手VSTプラグインソフトウェアディストリビューターである Plug In Boutique での VOCALOID 製品販売開始など、多方面での意欲的な活動が続きます。
また、8月にはクリプトン・フューチャー・メディアから「初音ミク」の VOCALOID6 化プランもアナウンス、VOCALOIDの今後の動きに一層の注目が集まりました。
歌声合成市場はかつてないほどの盛り上がりの中、未来の VOCALOID を考えるとワクワクが止まりません。
未来のために何を創っていけるか?
我々自身は常にチャレンジャーです。
これからの20年も皆様と一緒に歩んでいければ幸いです。