2022.05.19
ヤマハが開発した歌声合成技術、「VOCALOID(ボーカロイド)」。2003年のリリース以来進化を続け、現在はVOCALOID5に。また、各社よりVOCALOID向けのボイスバンクが発売されています。歌声合成技術を用いて作られたバーチャル・シンガーが歌う音楽としてジャンル「ボカロ」が確立され、今では日々多くのボカロ曲が投稿され、愛されるようになりました。ボカロ文化を支えるボカロPとヤマハが開発した歌声合成技術VOCALOIDの出会いや関係性を紐解くスペシャルインタビューが「ボカロPとVOCALOID」。
今回は初音ミクを人間のように歌わせるボカロPとして名高いMitchie Mさんにお話を伺いました。
2011年7月、「FREELY TOMORROW」をニコニコ動画に投稿。VOCALOIDでは当時最速で10万再生、100万再生を達成。「歌詞がくっきり聴こえる」 – それまでのVOCALOID曲にはなかった技術=”神調教”スキルとハイクオリティな楽曲・アレンジは、J-POPリスナーや海外VOCALOIDファンなど幅広いユーザー層からの高い評価を受けている。
2015年には、初音ミクの調声技術が評価され、安室奈美恵「B Who I Want 2 B feat. HATSUNEMIKU」の調声と作詞を担当。2020年にはモバイルリズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』のテーマ曲を担当。
VOCALOIDリスナーでない人でも自然に聴ける歌声の楽曲を制作している。
Y:本日はよろしくお願いいたします。まずはVOCALOIDとの出会いについて教えて下さい。
M:音楽雑誌の広告だったと思います。MEIKOの広告だったと思うんですけど、「遂に歌声を打ち込む時代になったか」と思ったのを覚えています。歌を打ち込むツールを探していた訳ではなかったのですが、新しいものが好きなので、どんな感じなのか気になってデモソングなどを聞いてみました。仕事で使えるか考えたんですが、当時はまだ厳しいなという結論で。少しロボっぽさみたいなものがあるなと。でも、コーラスとか簡単なものならいけるんじゃないかなという印象でした。
Y:ボカロ曲は昔からたくさん聴いていたのでしょうか?
M:興味はありましたけど、ぜんぜん聴いてませんでしたね。でも活動を始める頃にニコ動で色々聞いてみて、「自分でやったらもうちょいうまく調声をできるんじゃないかな」とは感じていました。
Y:実際にVOCALOIDを導入しようというきっかけはどんなことだったのでしょうか。
M:最初の投稿は2011年なんですが、その頃日本自体が大変な状況で、受注して音楽を作る仕事だと大変だなというのを実感していたんです。自分一人で完結できるボーカルものを作れるようになろうと考えるようになりました。そんな中で初音ミクが流行っていて、「あ、これいいじゃん」って思って、初音ミクを買ってボカロ曲を作り始めました。
Y:導入時に他のボイスバンクもお試しになりましたか?
M:候補に上がったのは初音ミクと巡音ルカでした。自分の音楽性にはルカのほうが合っているかなと思ったんですけど、キャラクターの人気度は大事かなと思って初音ミクを選びました(苦笑)。
Y:使ってみた初音ミクの印象を教えて下さい。
M:低音が苦手なんだなというのがわかって、あまり低い音域は避けた方がいいなと。でも高い音はすごく抜けの良い声だったので、高い音域をうまく使えばいい曲が作れそうだな、曲自体もミクに合わせたものを作っていく方が良さそうだなと感じました。ストックにあった曲を使って作り始めたんですが、そのままのキーだと低すぎて合わなかったので1音か2音上げてアレンジしました。もっとうまく歌わせられるとは思っていたので、調声を重視して最初の曲を作りました。
Y:最初の曲からもはや本物の人間のような声ですよね。初めて聞いた時に圧倒されたのを覚えています。
Y:最初に購入したVOCALOIDでの思い出話などがあれば教えて下さい。
M:最初はVOCALOID2なんですけど、アンドゥが1回しかできなかったので苦労した覚えがあります(苦笑)。あとは当時からMacを使っていたので、環境を構築するのが大変でしたね。
Y:すみません、、、(汗)。VOCALOID Editor for CubaseからはMacでも使えるようになりましたが、お使いになりましたか?
M:慣れてしまったせいか、単体のVOCALOID Editorしか使ったことがないです。DAWで曲を作って書き出して、VOCALOID Editorに読み込んで使っています。
Y:ボカロ曲を作る時に特に意識していること、こだわっていることを教えて下さい。
M:調声はこだわっていますね、最初に『FREELY TOMORROW』出しちゃったのでクオリティ下げられないというのもあるんですけど(笑)。ボーカルの打ち込みって歴史がなかったので、そこを切り拓いている感じが自分としてはすごく楽しいです。今でももっと良い歌声を作れるよう、新しい方法をいつも探しています。
Y:調声はVOCALOID Editorだけで行っているのでしょうか。
M:VOCALOID Editorで作り込んでからオーディオ編集という流れです。ピッチ修正ソフトとノイズ処理ソフトは便利なのでよく使います。VOCALOID Editorだけの状態でも聴けないことはないんですけど、オーディオ編集をするとさらにリアルな歌声になります。7〜8割をVOCALOID Editorで作っているイメージですね。
Y:ボカロ曲以外の制作とは異なると感じることを教えて下さい。
M:VOCALOIDって、作者の自由な発想でどんな曲を歌わせてもいいじゃないですか。人間だとアーティストのイメージに沿って作らないといけないんですけど、VOCALOIDはそれが無いんです。シンガーさんのイメージに引っ張られずに曲が作れるのVOCALOIDならではの面白さだと思います。あとはミキシングですね。ボカロって人間の声に比べると細いんですよ。そのままだとオケに埋もれてしまったり、人間の曲と並べた時に違和感が出てしまうんです。なので、エキサイター等を使って思いっきり前に出すとか、ミキシングでは人間と異なる独特の音作りをしています。
Y:ボカロという文化に関わって一番感動したことを教えて下さい。
M:『FREELY TOMORROW』の再生数が伸びていって、色々な派生動画が出てきたんです。歌ってみた、踊ってみた、さらにはMMDで作ったものとか。当時ニコニコ動画の二次創作文化を知らなかったので、これは面白いなって、すごく感動しました。あとは海外の人に自分の曲を聞いてもらえる機会はなかったので、海外のリスナーさんが多いことに感動しました。
Y:二次創作作品を聞いた時の印象を教えて下さい。
M:『FREELY TOMORROW』を男性の人が歌ってヒットしていた動画があって、男性版でも面白いなと思ったのを覚えています。みんなそれぞれ自由に創作を楽しんでいるのがすごく伝わってきました。
Y:VOCALOID、ボカロ文化がご自身の音楽にどのような影響を与えたか教えて下さい。
M:ボカロで人生変わりましたね。去年で活動10周年だったんですけど、10年間ほぼボカロ曲だけ作って生活してきたので、ボカロ無しは考えられないというか、ありがとうございますという感じです。ボカロ様様です(笑)。ボカロ音楽はそれまで自分が作ってきた音楽とは少し違う世界だったので、最初は抵抗がありました。けど入り込んでみると今までにない面白い文化で、やってみて良かったなと思っています。まさか自分がこのカルチャーの中に入ることになるとは思っていませんでした。
Y:聞くまでもないかもしれないのですが(苦笑)、気に入っている、想い出深いボイスバンクを教えて下さい。
M:やっぱり初音ミクになるんですけど(笑)、抜けのいい高音が一番の魅力ですね。人間でもなかなかあの高域は出なくて。他のボイスバンクでも初音ミクほどは出てこないんです。あの歌声は聴いてて独特の心地よさがありますね。
Y:非の打ち所がない感じですね。
M:いや、でも例えば母音の「お」の声はいまだに不満があって(苦笑)、声の抜けがイマイチなんです。実際に人間が歌う「お」って「あ」に近いんです。でも初音ミクは思いっきり「お」って発音なんで、これを毎回修正してますね。でも、そういう手間がかかるところが逆にかわいいんですよね(笑)。
Y:ボカロPさんのミク愛は色々なタイプがあるなと思っているんですが、Mitchie Mさんのミク愛は長年連れ添った音楽ユニットのようなものを感じました。参考までに、ヤマハ製のボイスバンクで気に入ったものがあれば教えて下さい。
M:VY1ですね。VY1 はキャラクターやその設定が存在しないので、純粋なボーカルシンセとして仕事で使いました。歌声も癖がなく扱いやすかったので、曲によく馴染みましたね。初音ミク以外のボイスバンクをメインボーカルとして使ったのはこの曲が最後かもしれません。
Y:これからボカロPになりたい人、VOCALOIDで曲を作ってみたい人にアドバイスをお願いします。
M:ボカロPの場合、曲が作れるということだけではなくて、曲を人に聞いてもらうためにどうすればいいかっていうマーケティング感覚はとても重要です。SNSで宣伝したり、動画のサムネイルを作ったり、注目を集めるための方法を勉強しておくといいと思います。若い時の時間ってすごく大事で、そのとき吸収した事が後の人生を大きく左右することもあるので、ぜひ貴重な時間をボカロ制作に使って楽しんでほしいなと思います。
Y:ありがとうございます。『FREELY TOMORROW』の動画タイトルの付け方だけでもかなり勉強になりますからね。
M:あれは少しやりすぎましたけど(笑)。でも、当時は新人のボカロPだったので、あれくらいやらないと多くの人に聴いてもらえなかったんじゃないかと。結果的には良かったと思っています。
Y:今回は、これからボカロPを目指す方にとって大変貴重なお話を伺えたかと思います。本日はありがとうございました。
M:はい、ありがとうございました。
記事制作協力:合同会社SoundWorksK Marketing
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