2022.06.23
ヤマハが開発した歌声合成技術、「VOCALOID(ボーカロイド)」。2003年のリリース以来進化を続け、現在はVOCALOID5に。また、各社よりVOCALOID向けのボイスバンクが発売されています。歌声合成技術を用いて作られたバーチャル・シンガーが歌う音楽としてジャンル「ボカロ」が確立され、今では日々多くのボカロ曲が投稿され、愛されるようになりました。ボカロ文化を支えるボカロPとヤマハが開発した歌声合成技術VOCALOIDの出会いや関係性を紐解くスペシャルインタビューが「ボカロPとVOCALOID」。
今回は「ビターチョコデコレーション」、「コールボーイ」などのヒット曲をリリースし、最近では「うっせえわ / Ado」の作詞作曲を手掛けたことでも話題のsyudouさんにお話を伺いました。
2012年からインターネット上での活動をはじめ、「邪魔」、「ビターチョコデコレーション」、「コールボーイ」、「キュートなカノジョ」など多くのヒット作を発表。歌い手や、VTuberなど様々なアーティストに楽曲提供を手掛け、2020年10月にAdoに提供した「うっせぇわ」はさまざまなチャートで1位を獲得し、YouTube再生回数は2億回を超える。Billboard Chartの作曲家・作詞家ランキングでも常にランクインし、最高位6位となる。
2021年3月に初となる自身歌唱楽曲「へべれけジャンキー」を発表し、シンガーソングライターとしての活動もスタート。7月に発表した「ギャンブル」では、TVアニメ『月が導く異世界道中』のオープニング主題歌を担当。自身歌唱楽曲「爆笑」でも1,300万再生を超えるなど、YouTube登録者数は55万超え、YouTube総再生数は1.6億回を超える。独自のダークな世界観を武器にファンを拡大中。
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Y:VOCALOIDをどこで知りましたか?
S:SPACE SHOWER TVで「スペシャボーイズ」っていう番組があったんですけど、そこで初音ミク発売直後に特集をしていたんです。「あとはアッコにおまかせ」でも初音ミクが出ていて、「これはなんだ?」って。かわいいキャラクターがいるなって。それで検索してニコニコ動画を見に行きました。
Y:テレビからの出会いだったんですね。最初の頃にニコニコ動画で聞いていた曲を教えて下さい。
S:坂本真綾さんの「プラチナ」の初音ミクカバーだったと思います。初期はオリジナルが少なくてカバーが多かったんです。2、3ヶ月後にはオリジナル曲が増えてきて。外せないのは「メルト」ですよね。曲のクオリティも含めてここにしか無いものを見つけちゃった感ありました。家族みんな音楽が好きだったんですけど、自分しか知らない音楽を見つけた!みたいな。少し優越感があったというか。他にも色々あるんですけど、、、「えれくとりっく・えんじぇぅ」。あとあのあの曲、、、「この世界のメロディ〜わた〜しの〜♪」、、、「Packaged」ですね!
Y:初音ミクに出会う前からイラストや漫画などはお好きだったんでしょうか。
S:初音ミクが出た当時小学六年生で、普通にオタクでした。「神様家族」っていうライトノベルがあってテンコちゃんっていうキャラが出てくるんですけど、好きでした。あとケロロ軍曹とかめちゃめちゃ好きで、コミックス丸暗記してました(笑)。
Y:ケロロ軍曹からのVOCALOID、初音ミクだったんですね。
S:好きなものに囲まれた部屋の中でパソコンをカタカタやってるっていう絵面がかっこよくて。そんな中に見た目が最高なデジタルの歌姫が出てきたんです。出会っちゃったな〜っていう。ツインテールで青髪でっていうビジュアルが溢れていて僕には最高でした。
Y:最初に聞いたVOCALOIDの声の印象を教えて下さい。
S:無機質だなとは思いつつも、そこに可愛さを感じたというか、ツンデレを感じたというか。「涼宮ハルヒの憂鬱」に長門有希っていうキャラがいて、無機質な感じでボソボソしゃべるんですけど、その可愛さに似ていたというか。さっきの「プラチナ」の出だしって「I’m a dreamer」っていう歌詞で、初音ミクがちゃんと歌えないんですよ、「あまあでぃーまー」みたいな。それがめっちゃ可愛かったんです。
Y:リアルさを感じたのではなく、むしろ機械的なのが良かったと。
S:無機質なのが逆にいいんです。
Y:リスナーだったsyudouさんがVOCALOIDを買ってボカロPになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
S:はっきりとしたきっかけがあるとしたらハチさん(米津玄師さん)です。飛び抜けてる、VOCALOIDを使ってこんなことできるんだ、めちゃめちゃやべー!ってなって。自分も曲を作ってみたいと、いてもたってもいられなくなりました。この人がどういう感覚で曲を作っているのか理解してみたいと思うようになりました。それが中学の後半から高校生くらいで、機材とかを徐々に揃えるようになりましたね。DAWとかは無料のものを実家のパソコンに入れてなんとか環境を作ったんですけど、VOCALOIDだけは親にねだってVOCALOID 2を買ってもらいました。とにかく初音ミクが使いたかったんです。ほんと、恋をしていたんです、初音ミクに。
Y:当時の制作での苦労話などがあれば教えてください。
S:そもそもDAWというものを知る前に初音ミクを買ってしまったので、歌わせるまではそれっぽくできたんですけど、ミキシングが全くわからなかったんです。無料の音声編集ソフトでミキシングをしていたので音がひとつしか扱えなくて、カラオケとVOCALOIDの音を混ぜるのが大変でした。その頃「DAWっていうのを買うとほぼ無制限に音を重ねられるよ」って聞いて、「マジで!?」みたいな(笑)。DAW自体知らなくて、大学に進学する時にやっとCubaseとVOCALOID 4を手に入れました。そこからはずっとCubaseです。
Y:VOCALOID2で初めて初音ミクの声を出した時の感想を教えて下さい。
S:もう感動でしたね。クリックして「あー」って声が出て「すげー!」って。その後はバージョンアップの度に発音はよくなりましたよね。ブレスも自動で入れられるようになったし、調教しなくてもそこそこ歌ってくれるようになったなとは思います。そもそも、愛した女が出した声に従うというか、そこにケチつけるのは違うなと思ってるんですよ。
Y:曲を作る時は初音ミクに合う曲を作るイメージで作曲するのでしょうか。それとも作った曲を初音ミクに歌わせるイメージなのでしょうか。
S:カワイイ声なのでカワイイ曲、アイドルっぽい曲ってやってみたんですけど全然伸びなくて。それで違う方向性の曲に振り切ってみようって思ったのが「邪魔」っていう曲です。「邪魔」は初音ミクに合っているとは思っていなくて、ただ自分の思いを詰め込んだ曲なんです。でも結果的にはそれが初音ミクの無機質さと合っているという反応につながって。自分に素直になったら初音ミクがついてきてくれたっていう印象です。ミクに向けて作らなかったことがミクにとっては正解だったのかなと。
Y:ボカロ文化に関わるようになって最も感動したことを教えて下さい。
S:小中学生の時に聞いていた曲を作っている人に実際お会いできたことですね。DECO*27さんとか、ピノキオピーさん、Neruさんとかにお会いして、半端なく感動しました。何回かお会いしていくうちにミュージシャン同士の会話ができて「めっちゃ嬉しいな」と思いました。
Y:歌ってみたなどの二次創作作品が出てきた時はどのような印象でしたか。
S:最初に聞いた時は恥ずかしい、むず痒いなという気持ちでした。二次創作に関しては120%嬉しいです。二次創作って熱量を持った好きなものしか作れないと思うので、本当に嬉しいですね。再生回数がなかなか伸びなかった頃、コメントですごいお褒めの言葉をもらえたり、二次創作を作ってもらえたりして、それがモチベーションに繋がりました。
Y:VOCALOID、ボカロ文化との出会いがsyudouさんの人生にどのような影響を与えたかを教えて下さい。
S:音楽を聞くことはあっても作ることはなかったかもしれません。VOCALOIDなら自分でもできると思ったんです。高校でバンドやってもうまく行かなかったけど、パソコン1台で音楽が作れるVOCALOIDならできる、みたいな。バンドはやったかもしれませんけど、大学までで終わっていたと思います。
大学4年の時に「邪魔」が伸びたんですけどそのまま1回就職したんです。その後、「ビターチョコデコレーション」がもっと沢山の方に聴いてもらえるようになって会社を辞めることにして、それを両親に言って。ちょっと不安だったと思うんですけど理解してくれて、いまはお陰様で仲良くなることができました。人生ぜんぶ初音ミクというかVOCALOIDがきっかけなんですよね。すべてを変えてもらえました。
Y:聞くまでもないかなとは思うのですが(苦笑)、一番好きなボイスバンクを教えて下さい。
S:好きなボイスバンクは初音ミクで(笑)、Darkが好きです。ミクは全部が好きなんですけど、無理やりいいところを挙げるとしたら初音ミクはバランスがいいと思うんです。どのジャンルにも引っ張っていけるというか。色々なタイプの曲を書いてきましたけど、途中で合わないから変えようと思ったことはなかったです。
Y:お勧めのボイスバンクを聞かれたら、初音ミクを勧めますか?
S:勧めますけど、初音ミクと添い遂げる覚悟がないとダメです(笑)。自分の好きな声、好きなキャラクターを選んで使うのがいいと思うんです。合うとか合わないで選ぶよりもその方が気持ちが乗ると思うんです。
Y:これからボカロPになってみたい人、VOCALOIDに興味がある人に向けてアドバイスをお願いします。
S:ひとつだけアドバイスするなら楽しくやるということですね。僕もVOCALOIDや初音ミクで人生が変えられると思って始めた訳ではないんです。キャラクターが好きとか、音楽が楽しいとか、根源的なものを大切にやっていくのが大事だと思います。今でこそ音楽だけですけど、会社で働きながらボカロPだった時も楽しかったんです。その方が人生が豊かになると思いますよ。
Y:これからVOCALOIDに挑戦する方も大変参考になるお話だと思います。お時間いただきましてありがとうございました。
S:しゃべりまくってしまってすみませんでした、ありがとうございました!
記事制作協力:合同会社SoundWorksK Marketing
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