2024.06.20

デモソングの裏側 – MioDioDaVinci – “ZOLA Project – BORDERESS (English Version)” スペシャルインタビュー

※本インタビューは英語を元文とした日本語翻訳版となります

Q1: プロフィールを教えてください。

イラストレーター、そしてUTAUとVOCALOIDを駆使するカバー楽曲制作アーティストとして活動しています。VOCALOIDユーザーになったのは2010年で、2014年にはZOLA Projectをはじめとする自作のアップロードを始めました。Youtubeチャンネル(https://www.youtube.com/miodiodavinci)とTwitterアカウント(https://twitter.com/miodiodavinci)を持っていて、個人ウェブサイト(https://miodiodavinci.carrd.co/ )でも情報を公開しています。

Q2: ZOLA Project の公式デモソング「BORDERLSS」英語版に込めた想いを教えてください。

ZOLA Projectのファンはみんな思っているはずですが、「BORDERLESS(ボーダーレス)」はトリオを象徴する曲だと思います。それぞれのボーカルの特徴を活かしつつ、明るく華やかな雰囲気の曲に作り上げられた見事な作品です。何年も、自分のプレイリストから外したことがないほどずっと何度も聞いてきた曲ですから、英語カバーを制作する機会を頂いて本当に光栄でした。

正直なところ、コラボの件で初めてヤマハスタッフの瀬戸さんから連絡を頂いたときは、卒倒するかと思いました。しばらく横になって、夢ではないんだと自分に言い聞かせました。すぐにでも「イエス」と答えたかったのですが、大学の最終学年に差し掛かり、その年には忙しいインターンシップに参加する予定だったのでためらいがありました。そこで、ライスデイティ(Ricedeity)にどうしたらいいとアドバイスを求めたら、一緒にプロジェクトに参加するよ、と言ってくれたのです。

その後、大学の授業とインターンシップの間で時間をやりくりしながら、1年間の共同作業を経てこのカバー作品が完成しました。私がイラストとオーディオを担当し、ライスデイティがアートアセットのプランニングとMVの制作を担当しました。時折、進み具合を確認してマイルストーンの達成を祝い、スキルを存分に活かしてZOLA Projectへの愛をファンや友人たちと分かち合える日を心待ちにしていたのを覚えています。

このプロジェクトで大変だったのは、ファンがこのカバーに何を期待しているのかが痛いほどわかっていたことです。オリジナル曲が伝説になっていることもありますが、そもそもVOCALOIDのファンの多くは要求水準が高く、結果として英語カバーにネガティブな想いを抱く傾向があります。「VOCALOIDの英語カバー曲はどれも歯切れが悪く、タイミングがズレていて、ボーカルが曲と合っていない」といったコメントが動画によくついています(そんなことはありません!)。なかなかうまく作業が進まないときに頭をよぎるのは、そうした否定的なコメントばかり。見る人にそうした考えを改めてもらうためにも、「もっと良いものを」と必死になりました。

そんな不安も、オクタビアがプロジェクトに参加してくれたことで一掃されました。カバー曲の英語の歌詞を書いたオクタビアは、多くの点で超一流の作詞スキルの持ち主で、今回参加してくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。彼女の訳詞はとてもリズミカルでうまくできていたので、通学するときに、車の中でついつい口ずさんでしまいました。

英語話者のコミュニティの中でも特に優れた才能を持ち、情熱にあふれた人たちと共同作業を行う機会が与えられたことを光栄に思っています。また、その背後には瀬戸さんのサポートがあったことは言うまでもありません。「BORDERLESS(ボーダーレス)」英語バージョンの制作プロセスは、まさに旅のようなものでしたが、ようやく目的地に到着したことをうれしく思います。

Q3: イラストもご自身で描かれ、公式マテリアルとして提供されていますが、想いを聞かせてください。

ZOLA Project の公式イラストを担当させてもらえるなんて、夢のようでした。そもそも、私がZOLA Project に興味を持つきっかけとなったのは、オルタネートボックスアートでした。長年、カーネリアンのアートワークに魅かれていたので、あこがれのアーティストたちの作品と一緒に自分の作品が並べられることが、どれほど恐れ多い出来事だったのかは言うまでもありません。

ライスデイティと私は、密に連絡を取りながら新しいイラストに使うコスチュームのデザインを進めました。最初に衣装のアイデアを描き始めたときは、どんなアーティストでもきっと楽しんで描くような、クリアで大胆なデザインを作りたいと考えて、多くのテーマで試行錯誤してみました。

しかし、既存のイラストをよく見ているうちに、往年のVOCALOIDデザインのサイバーテクノロジーっぽい雰囲気を醸し出すようなコスチュームがまだないことに気づきました。V 6インターフェースからインスピレーションを得て、ダイナミックな要素を盛り込む一方、キャラクター別にそれぞれの名前をVOCALOIDの英語発音記号であしらったエナメルピンを用意するなど、細部にわたる「こだわり」満載の新しい未来的なコスチュームを作成しました。

最終的なイラストには、それまでの10年間にわたって徐々に構築していった個人的なZOLAのデザインから多くの素材を流用しました。それはWILに一番現れていると思います。少し自己満足的なところもあったかもしれませんが、「MIO ZOLAs」の公式デザインを作成し、独特のコスチュームセットとして確立することができて満足でした。

何よりも、ZOLA Projectのユーザーに自分のイラストを楽しんで活用してもらえるのだと思うとうれしくてたまりません。私がAmano、Carnelian、IdeoloなどのイラストがきっかけでZOLA Projectへの恋に落ちたのと同じように、私のイラストがきっかけでこの世界に引き込まれる人が出てくるといいなと、密かに思っている自分がいます。

Q4: 「VOCALOID6 Voicebank ZOLA Project」を使用した感想を教えてください。

VOCALOID 3 ZOLA Projectのオリジナルライブラリを長い間使用していたこともあって、VOCALOID 6のボイスバンクには大きな期待を寄せていました。最初のうちは声色の違いに少し戸惑いましたが、使っていくうちに慣れてきて、今では大好きです。

KYO V6の声は、とても魅力的だと思います。 KYOの英語は、3人の中で一番ネイティブらしいし、作業がダントツで楽しいシンガーです。ボイスバンクの使い勝手がよかったので、「BORDERLESS(ボーダーレス)」の英語カバーの作成や勉強の合間のウオームアップとして小プロジェクトに取り組んだりもしました。YUUやWILと同じで、KYOは一部のVOCALOIDソングにありがちな早口の歌詞を歌うのはあまり得意ではないですが、KYOの声の豊かさとダイナミクスが生み出す表現力の高さはそれを補って余りあります。

KYOとは対照的に、YUUとWIL V 6の動作は、V 3とよく似ていると感じました。YUUは、V 6ライブラリでは声が少しソフトになったものの、新しい声もハスキーなボーカルに向いているように思います。エディターをアップデートしたあと、YUUのボイスバンクでネイティブらしい英語を作るのに苦労しましたが、日本語と英語の発音記号を併用したところ、発音がクリアになり、V 3のようなナチュラルで明るい音を取り戻すことができました。YUUはさまざまな角度から実験的なアプローチが可能な声で、手間はかかるけれどもいろいろなジャンルにマッチできそうです。

WILは、V 3の繊細なアーティキュレーションや、ふわりとした声色を受け継いでいて、いろいろなチューニングをしてもパーフェクトに応えてくれました。WILの英語はYUUの英語よりも使いやすい印象で、音価が短い所以外はほぼ調整不要です。長い間、V 3のネイティブらしくない英語を修正しようと苦しんでいましたが、作業がとても楽になりました。V 3より音がクリアではないですが、すぐにダウングレードしようと考えるほど深刻な問題ではありません。 WILの声はミキシングしやすく、3人の中で一番作業が楽でした。WILの英語はまた使ってもいいかな、と思います。

全体に、ZOLA Project V 6には割と満足しています。流暢で自然な英語ボーカルを簡単に作れることがわかりましたし、「MONSTER」のVOCALOIDカバーも好評だったので、これからもっと英語カバーを制作したいと思っています。これまでもやろうとしたらできたのですが、日本語のボイスバンクを使用して英語のボーカルを制作する手間を考えてしまい(VOCALOID 4で英語を使う気には全くなりませんでしたし)、長い間避けていたのです。より少ない手間で満足のいくクオリティのものが作れるようになりましたので、前よりはるかに改善されたと思います。

Q5: VOCALOIDや ZOLA Projectとの出会い、きっかけとなるエピソードを教えてください。

VOCALOIDはユーザーになる前に何度か目にしていました。「Kokoro」のミュージックビデオがおすすめに出てきたのを覚えていますが、はじめは理解できず、変わっているなと思いました。今探してみても、もうその動画は見つからないかもしれません。

VOCALOIDに本当の意味で出会ったのは「ブラック☆ロックシューター」ですYouTubeに「七色のニコニコ動画」が再アップされて(当時は東方の動画をいつも見ていました)、オープニングのメロディに魅了されました。その後、オリジナル曲を見つけたときに、ミクのハスキーで加工された声に抗いがたい魅力を感じたのです。1カ月ほど連続でループ再生していたと思います。ちょうど海外のUTAUコミュニティで活躍していた友人がいて、彼女は私がVOCALOIDを聴いていると聞くと、すぐに他のコミュニティメンバーに紹介してくれました。

その後2カ月ほどの間に、私はUTAUを初めてレコーディングし、カバー曲の自主制作を始めました。お気に入りの曲が新しいボーカルで生まれ変わるのを聞くことができた時の喜びが、現在の道を歩むきっかけになったのかな、と思います。その後、2013年に最初のVOCALOIDを購入したのをきっかけに、自分の立ち位置がガラッと変わりました。もうカジュアルなリスナーではなく、アクティブに貢献をしたいと思うようになったのです。

ZOLA Projectについては、実はVOCALOIDの10周年記念プロジェクトをずっとフォローしていました! プロジェクトの立ち上げが発表された瞬間から、無数の憶測が書き込まれたフォーラムのスレッドを読み始めて、頻繁にニュースをチェックしていました。友人とランチを食べながら、熱い想いをまくしたてていたのをよく覚えています。プロジェクトの全貌が明らかになった日は、コンピューターに釘付けでした。

「ボーダーレス」は最初に耳にしたZOLA Projectのデモソングで、もちろん、すぐに魅了されました。ボーカルは、それまで聞いたVOCALOIDとは違い、自然で表現力にあふれていました。「歌手音ピコ」を購入しようとしばらく貯金していたのですが、「ボーダーレス」を聞いた瞬間に気が変わりました(ボーカリスト1人分の値段で3人分が手に入るとあって、金銭的に助かるという計算もありましたが)。

Q6: VOCALOIDや ZOLA Projectの好きなところを教えてください。

VOCALOIDの好きなところは、今も昔も、クリエイティブコミュニティを育てて、サポートしてくれる点です。オフィシャル作品とファン作品の間にはたいてい「上下関係」がありますが、VOCALOIDではよく、そういった「格差」がなくなります。誰の作品が一番「オフィシャル」かと比較されることもありません。

ファン、リスナー、アーティストの垣根が薄れたところで音楽カルチャーの「貢献者」になれるのですから、ただただ本当にうれしいです。VOCALOID作品の集合体が、1人ではなく、何百人、何千人ものクリエイターによって構築されているということに、自ずと特別な想いが湧き上がってきます。こんなにも多くの人が、「パッケージに入った歌い手」というコンセプトに魅了されているのですから。多くのクリエイターたちが何度も何度も、自分の楽曲を持ちだしては「これ、歌ってくれる?」と頼むのです。何も感じないほうがおかしいですよね。

共同作業をするクリエイティブコミュニティはほかにもたくさんありますが、音楽とアートのコラボレーションという点ではVOCALOIDが際立っているように思います。カバー楽曲を制作するたびに、新しいイラストを描いたり、新しいコスチュームをデザインしたり、新しいプログラムやメディアを試したてみたりするのが大好きなんです。こうしたVOCALOID作品の制作の流れは、いろいろなアーティストが共同作業を行うのにピッタリな「キャンバス」でもあり、ファンも気軽に参加できる場になっているように思います。

VOCALOIDで私が一番好きなのは、「新たなリメイク」が本当に歓迎されるところです。といっても、いつも背中を押されるわけではありませんが。私がZOLAにこんなにもハマっている理由も、そこだと思います。新しいカバー曲は、その一つ一つが、ZOLAに新たな解釈を加えて新しいものを生み出すチャンスです。私自身も、制作のたびにZOLAに惚れ直してきました。

Q7: これまでに作った Zola Project の作品とそのエピソードをお聞かせください。

ZOLA Projectを入手し使用するようになって10年近くになります。その間、多くのカバー作品を制作し、ネット上で公開してきました。大好きなVOCALOID曲の中でも、新しいファン層にはあまり知られていない古い曲(「One of Repetition(繰り返し一粒)」や「WAVEFILE」など)に対する熱い想いをシェアしたいという気持ちから生まれたカバー曲もたくさんあります。一方でZOLA Projectを新しいパーソナルなものに再構築する手段として作った曲もあります(「Monster」など)。私の最初のカバー曲である、2014年に作成したnikiの「Plane Theory(平面説)」では、公開にはためらいがありました。ネット上で英語カバーへの厳しいコメントを目にしていましたし、誰かが自分の作品を見下していやなことを言うのが怖かったのです。結局、多くの人が優しい言葉をかけてくれて、長い間、私はそのことを誇りに思っていました。もちろん今も誇りに思っています。

例えば、KYOに歌わせたHachiの「Donut Hole(ドーナツホール)」のカバーは、予想をはるかに超える反響でした。「My Crush was a Monster Boy(気になるあいつは怪獣少年)」のカバーを出してすぐ、多くのよいコメントがついた「お礼」のつもりで作成した「Donut Hole(ドーナツホール)」でしたが、こちらのほうがはるかに大きな成功を収めてしまったのです。もともとこの曲を選んだのは、KYOに対して私が抱いていた、「何か」を切に求めているけれども、その何かの正体が分からずにいる人、というイメージと一致していると感じたからです。このカバーがその後まもなく、「KYOのカバーの作り手」としての私のイメージを確立する作品となるとは、知る由もありませんでした。

「Crime and Punishment(罪と罰)」、「Rotten Heresy and Chocolate(腐れ外道とチョコレゐト)」、そして7周年を記念して作った「WANDERLAST(ワンダーラスト)」のカバーを挙げるだけでも、私がどれだけ古い曲好きかが分かるはずです。先が全く見えない不確かな時代にあって、古い歌に立ち返ることで心の「逃げ場」を見出していたのでしょう。カバーによってどんな派生キャラが出てくるかな、と想像するのはとても楽しかったです。また、これらの作品は、コロナ禍の不安から気を紛らわす役にも立ちました。意表を突いてカバーを3曲同時にアップするというやり方も、たとえほんの少しの間であっても、みんなの気持ちを盛り上げるのではないかと思いました。

しかし、懐かしさ以上に、新しいレンズを通してZOLAを見る機会が与えられたことに心が震えました。Hachiの「Wonderland and the Sheep's Song(ワンダーランドと羊の歌)」のカバーを制作しているときには、歌詞とキャラクターにどっぷりハマりました。この曲の手描きの動画には前々から心を奪われていたので、あっという間に作品世界の探索に没頭したのです。自ら思い描いていた新たなZOLAのイメージを正しく伝えようとして、オリジナルのアニメ動画を作りたかったのですが、健康上の理由で断念してしまいました。 でも、ストーリーボードとアニメーションはパソコンに保存してあります。

Q8: これから VOCALOIDや ZOLA Projectを使って、こんなことをしてみたいなどの目標や夢があれば教えてください。

オリジナルの曲を書いたり、少なくともソングライターとの共同作業でオリジナル曲を作成したりしてみたいとはずっと思っていましたが、信頼できる英語ボーカリストもいないし、音楽理論も少しかじっただけですので、実現をあきらめていました。自分自身の体験を通じてVOCALOID 6と新しいZOLA Projectの可能性を実感できる今、以前よりも自信をもって新しいことに挑戦してみようと思うようになりました。いつかタイトルのどこかに「オリジナルソング」と書かれた動画を投稿できる日が来ることを願っています。

Q9: 今後のボーカロイドに期待することを教えてください。

ソフトウェア面では、VOCALOID AIが今後どのように成長し改善されていくかが楽しみです。キャラクターパラメーターが追加されただけでも、微調整の仕方が大きく変わり、ダイナミックなボーカルを作成することができるようになりました。今後は、AIライブラリで使用可能なツールだけでなく、標準のVOCALOIDパラメータの全てがコントロール可能になれば大満足です。

ここまで成長してきたコミュニティについては、今後どう変わっていくのか楽しみです。私たちは今、ある種の「ルネッサンス」を経験しているような気がします。そして、今後どこへ向かうのだろうかと思いめぐらすと、ワクワクが止まりません。

Q10: ファンの皆様へ一言お願いします。

ファンの皆様には、ただただ「応援していただきありがとうございます!」と言いたいです。私の作品を愛し、その愛について私に語ってくれた全ての人々の存在なしには、私の夢はとうてい実現できなかったでしょう。笑わせてくれた人たち。泣かせてくれた人たち。このコミュニティの一員であることに対する喜びで心を満たしてくれた人たち。こんな体験こそ、クリエイター冥利に尽きます。私は、アーティストとしては多産ではないことを自覚しています。にもかかわらず、皆さんは私から離れずにいてくれました。そのことに心から感謝しています。

私たちがこのコラボレーションを通じて成し遂げたことが、皆さん自身がボーカルシンセ作品を作成する動機やきっかけになることを願っています。何よりもまず楽しんでほしいです。これからのVOCALOID作品へのチャレンジに多くの幸運がありますように!